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2015年北京知的財産権裁判所における渉外事件のデータ解読

作者:汪正

序文

2016年5月に知産宝が発行した《北京知的財産権裁判所の司法保護状況データレポート(2015年度)》は、業界に極めて重大な反響を引き起こした。そのうち、該レポートは渉外事件と香港・マカオ・台湾関連事件の件数及び種類などの基本情報を示している。本稿は上記渉外事件のデータに対する概略的な解読を目的とする。

まず、渉外事件の概念を説明する必要がある。渉外事件とは、中国大陸地域及び香港・マカオ・台湾地域を除く外国関連主体を少なくとも一方の当事者とする事件を指す。また、《北京知的財産権裁判所の司法保護状況データレポート(2015年度)》のデータに関わる外国関連主体には、外国主体及び香港・マカオ・台湾主体の中国大陸地域に所在する関連主体を含まず、主要経営地が中国に所在するがオフショア会社として登録された主体も含まない。知的財産を重要視することから、外国主体は一般的に知的財産権を親会社又は知的財産権を専門的に所有し管理する子会社に所属させ、外国主体の中国における関連会社は一般的にグローバルコモンズを有する知的財産権を有しない。もちろん、中国関連会社が一部の中国地域の業務に関連する特有の知的財産を有する場合を除く。なお、一部の民事権利侵害事件が外国主体に関わる形式では、その中国関連会社が被告として挙げられ表記される。《北京知的財産権裁判所の司法保護状況データレポート(2015年度)》によれば、北京知的財産権裁判所が結審した民事権利侵害事件は相対的に少ない。従って、このようなデータが全体分析に与える影響は小さい。

次に、サンプルデータにおいて、渉外事件は合計1,095件で、サンプル総数の20.80%を占める。これは、北京知的財産権裁判所が2015年に結審した事件において、渉外事件の割合が大きいことを表す。そのうち、以下2つの主要な原因がある。一つは、北京市第一中級人民裁判所の商標と特許の行政訴訟に対する指定管轄権が北京知的財産権裁判所に移転した後、北京知的財産権裁判所は膨大な商標と特許行政訴訟(特に商標行政訴訟)を処理したことである。もう一つは、外国関連主体は商標と特許に対する行政授権と権利確定を非常に重要視していることである。また、渉外事件の結審件数と受理件数にはある程度の差があるが、結審件数は事件の基本的な全体的状況を大きく反映している。

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又、中国大陸地域が主体である知的財産権訴訟事件に対して、外国関連知的財産権訴訟業務は相対的に独立した部分であり、固有の特徴と規律を有する。一方面では一部の知的財産権代理機構は外国関連業務を専門としており、もう一方面では、国内業務に従事しながら外国関連業務に従事する大手中堅代理機構も、一般的に国内部と国際部を分けて設置している。外国関連知的財産権事件の代理市場構造が形成されたのは、歴史的にも原因があり、また各代理機構が異なる市場経営制度を採用したことにも原因もある。国内の知的財産権訴訟業務と外国関連知的財産権訴訟業務では、言語によるコミュニケーション、専門技能、文化習慣、考え方、クライアント目標、サービス要求、市場費用などにおいてそれぞれ異なる。国内の知的財産権業務と比較して、外国関連知的財産権業務に従事する代理機構及び弁理士は少ない。公衆は外国関連知的財産権業務及びその代理機構、弁理士に対する知識も少なく、例えば、外国主体の中国における訴訟状況はどうか、渉外事件代理市場の利益は一体どれくらい大きいのか、代理機構の経営状況と競争程度はどうなのかなどに対する理解が少ない。そして、異なる国家(地域)主体の経済力、訴訟制度、訴訟の考え方と習慣及び法律文化などもそれぞれ異なる。従って、外国関連知的財産権事件に対して特定のテーマを取り上げ、更なる分析を行うことが非常に重要である。

最後に、本稿は上記渉外事件データに対して下記5つの面から更なる解読を行い、より正確なデータを提示するために、データを掘り下げることを目的とする。(1)国家(地域)の分布、(2)行政及び民事事件、(3)商標、特許、著作権の分類、(4)当事者の一方が外国関連及び双方が外国関連、(5)代理機構。同時に、本稿はデータを解読するうえ、外国関連知的財産権訴訟事件に関する15項目のキーワード情報を取りまとめた。

一.渉外事件:国家(地域)の分布

【データの解読】

1.アメリカ主体の事件が最も多く(382件)、1/3強を占める。

2.欧州主体の事件数(508件)は1/2に近く、事件数の上位10位のうち、5つを欧州が占める。

3.アジアその他の国家(地域)主体の事件は主に日本、韓国とシンガポールであり、三者はいずれも上位10位に入る

検索されたデータの統計によれば、上記渉外事件は44カ国(地域)の主体に関する(注釈〔1〕参照)。1,095件(合計1,113件)の渉外事件のうち、アメリカ、フランス、ドイツ、日本、イギリス、スイス、イタリア、韓国、英領ヴァージン諸島、シンガポールなどの国家(地域)が渉外事件の件数の前10位に入り、合計918件、総数(1,113件)の82.48%を占めている(注釈〔2〕参照)。前5位の国家(地域)は合計743件で、総数(1,113件)の66.76%を占めている。

アメリカ主体の事件は合計382件で、ランキング1を占め、全部渉外事件の34.32%を占めている。

欧州主体の事件は合計508件(英領ヴァージン諸島、英領ケイマン諸島、英領バミューダ諸島の合計35件を含まず)で、全渉外事件の45.64%を占めている。上位10位の国家(地域)のうち、欧州が5つを占め、それぞれ第2位(フランス)、第3位(ドイツ)、第5位(イギリス)、第6位(スイス)、第7位(イタリア)で、事件総数は378件である。

アジアその他の国家(地域)主体の事件は主に日本、韓国とシンガポールに集中し、三者とも上位10位に入っている。

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二.渉外事件:行政及び民事事件

【データの解読】

4.全渉外事件における渉外行政事件の割合が非常に大きい。これは、北京知的財産権裁判所が審理した商標、特許行政権限の付与・権限確認事件の割合が大きいという特徴を反映している。

5.全渉外事件における渉外行政事件の割合(9割超)は、すべての行政事件のすべての事件における割合(7割弱)より遥かに高い。これは、渉外主体の事件は行政訴訟に更に偏っていることを表している。

6.全渉外事件における渉外民事事件の割合(7%以下)は、すべての民事事件のすべての事件における割合(1/3弱)より遥かに低い。これは、渉外主体に関わる民事事件は比較的少なく、渉外主体の民事訴訟に対する慎重な態度又はある憂慮を示している可能性があることを表している。

 

1,095件の渉外事件のうち、渉外行政事件は合計1,024件で、全渉外事件の93.52%を占める。そのうち、(1)渉外行政判決が920件で、全渉外事件の84.02%を占める。(2)渉外行政裁定が104件で、全渉外事件の9.50%を占める。一方、すべての一審の知的財産権行政権限付与・権限確認事件は合計3,394件で、すべての事件(5,022件)の67.58%を占め、サンプルにおける行政訴訟事件総数の98.41%を占めている。

1,095件の渉外事件において、渉外民事事件は合計71件であり、全渉外事件の6.48%を占める。そのうち、(1)渉外民事判決が13件で、全渉外事件の1.18%を占める。(2)渉外民事裁定は58件で、全渉外事件の5.30%を占めている。一方、すべての民事事件は合計1,573件で、すべての事件(5,022件)の31.32%を占めている。

上記データから分かるように、(1)全渉外事件における渉外行政事件の割合(93.52%)は、全事件における全行政事件の割合(67.58%)より遥かに高い。これは、渉外主体の事件は行政訴訟により偏ることを表している。(2全渉外事件における渉外民事事件の割合(6.48%)は、全事件における全民事事件の割合(31.32%)より遥かに低い。これは、渉外主体に関わる民事事件は比較的少なく、渉外主体の民事訴訟に対する慎重な態度又はある憂慮を示す可能性があることを表している。

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