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「IPHONE」敗訴、「facebook」勝訴、法律条項の選択がキーポイント

2016-06-24

筆者:陳志興 北京知識産権裁判所

転載元:知産力(http://www.zhichanli.com/article/32383

ネット上には、ニュースは対照しながら読むべきであるという言葉がある。近頃判決が言い渡された「IPHONE」訴訟事件と「facebook」訴訟事件を研究してみると、確かに面白い。両訴訟事件内容は基本的に似ているが、裁判結果は片や勝利、片や敗訴である。そのため、アップル社とFACEBOOK社は二重基準に遭遇し、裁判所の判決基準の統一性を疑問視する点がある。

両訴訟事件の判決書を精読した後、筆者は、この疑いは成り立たないと判断した。両訴訟事件の内容は基本的に似ているが、具体的に適用される法律条項にはやはり相違点が存在し、この相違点が両訴訟事件に明らかな異なる結果を反映している。両訴訟事件をより対照し分析しやすくするために、筆者はまずこの2つの訴訟事件を簡単に紹介する。

「IPHONE」訴訟事件(注釈①参照)

アップル社は早くも2003年及び2006年に第9類の「コンピューターハードウェア、電話機、携帯電話」などの商品において「IPHONE」商標、「i-phone及び図」商標(即ち、事件に関わる証明商標)の登録が承認された。新通天地科技(北京)有限公司(以下新通天地公司と略称する)は2007年9月29日に商標局に第6304198号の「IPHONE」商標(即ち、事件に関わる被異議商標)の登録を出願し、指定の使用商品は第18類の「財布、革製品」などである。アップル社は新通天地公司が登録出願した被異議商標に対して異議を申し立て、2001年の《商標法》第10条第1項第(8)号、第13条第2項の法律条項の適用を請求した。商標局、商標評議審査委員会はその異議理由をいずれも支持せず、被異議商標の登録を承認すると裁定した。アップル社は不服を申し立て、裁判所に提訴したが、両審裁判所はアップル社の訴訟請求をいずれも支持しなかった。一審訴訟において、アップル社は本件に関わる実体法的根拠は2001年の《商標法》第10条第1項第(8)号、第13条第2項に限定することを認めることを明確に表示した。裁判所の判決は、被異議商標の出願日は2007年9月29日であり、アップル社はその「IPHONE」商標に対して提示した使用証拠の多数が被異議商標の出願日後に形成され、且つ数が少なく、その「IPHONE」商標が被異議商標の出願前に馳名の程度に達したことを十分に証明できないと判断している。二審判決はさらに、アップル社は行政手続き及び原審訴訟において被異議商標の出願登録が2001年の《商標法》第41条第1項の規定に反すると申し立てていないため、該主張は原審判決及び訴訟裁定を下した根拠ではなく、本裁判所はこれに対して評価しないと指摘している。

「facebook」訴訟事件(注釈②参照)

フェイスブック社は2009年に第35類の「学校生活、広告掲載の分類手配、バーチャルコミュニティ、コミュニティネットワーク、写真共有、ファッション追跡に関わるオンラインディレクトリビジネス情報を提供する」サービス、第38類の「登録のユーザーのために学校生活、広告掲載の分類手配、バーチャルコミュニティ、コミュニティネットワーク、写真共有、ファッション追跡に関わるオンラインチャットルームに伝送する」サービスに「FACEBOOK」商標(即ち、訴訟事件に関わる引用商標)を登録することが承認された。劉紅群は2011年1月24日に商標局に第9081730号の「facebook」商標(即ち事件に関わる被異議商標)の登録を出願し、指定の使用商品は第32類の「ジュース(飲料)、アイス(飲料)」などである。フェイスブック社は劉紅群が登録出願した被異議商標に対して異議を申し立て、適用を請求する法律条項は2001年の《商標法》第10条第1項第(8)号、第13条第2項、第31条、第41条第1項である。商標局、商標評議審査委員会はその異議理由をいずれも支持せず、被異議商標の登録を承認すると裁定した。フェイスブック社は不服を申し立て、裁判所に提訴し、両審裁判所は最終的にいずれもフェイスブック社の2001年の《商標法》第41条第1項に関する訴訟理由を支持し、商標評議審査委員会が下した裁定を取り消すと判決した。裁判所の判決は、劉紅群が複数の商品カテゴリにおいて「facebook」商標を登録出願し、さらに第29類商品において「黒人」「壹加壹」などの商標を登録しており、該一連の商標登録行為は明らかに第三者の高い知名度を持つ商標をコピー、剽窃する故意があり、通常の商標登録の管理秩序を破壊し、公正競争の市場秩序を損ない、公序良俗の原則に反すると判断した。該訴訟事件において、両審裁判所はフェイスブック社の2001年の《商標法》第10条第1項第(8)号、第13条第2項、第31条に関わる訴訟理由に対しても支持しなかった。

上記訴訟事件の状況紹介からわかるように、ほぼ同じ訴訟事件の状況に基づいて、両訴訟事件は≪商標法≫第10条第1項第(8)号、第13条第2項を適用する際の裁判基準と裁判結果もほぼ同じく、所謂「二重基準」問題は存在しない。唯一の相違点は、「facebook」訴訟事件はさらに2001年≪商標法≫第31条、第41条第1項の適用が関わるが、該訴訟事件において第41条第1項を適用するにより被異議商標の登録を承認すべきでないと判断した。では、何故このような異なる局面が発生したのか?当事者の異議申し立てにある。「IPHONE」訴訟事件において、アップル社が適応を請求した法律条項は2001年の≪商標法≫第10条第1項第(8)号、第13条第2項のみである。これに基づき、二審判決は、アップル社は行政手続き及び原審訴訟においていずれも被異議商標の出願登録が2001年の《商標法》第41条第1項の規定に反したと申し立てていなかったため、該主張は原審判決及び訴訟裁定が下した根拠ではなく、本裁判所はこれに対して評価しないと指摘した。

従って、本稿は、アップル社は「IPHONE」訴訟事件に敗訴したが、決して不当な判決ではないという基本的な結論に至った。少なくとも「facebook」訴訟事件と対照して見ると、アップル社の合法的権益の保護行動は最善を尽くしていなかったと言える。

では、上記結論を得た上で、筆者は「IPHONE」訴訟事件をさらに検討したい。

まず、現時点での訴訟理由の枠組みにおいて、アップル社が2001年の《商標法》第13条第2項による保護を求める場合勝訴する可能性はあったのか。ネットワーク検索によって得られた資料によると、第1世代のiphoneは2007年1月9日にアップル社の前CEOスティーブ・ジョブス氏により発表され、2007年6月29日に正式に発売された。被異議商標の出願登録日は2007年9月29日である。即ち、アップル社の第1世代であるiphoneの正式発売日は、被異議商標の出願登録日より3ヶ月も早い。インターネット時代において、3ヶ月という期間は製品の知名度を上げるのに十分であり、引いては馳名に至ってもおかしくない。それでは、この3ヶ月における知名度の証拠は何であるのか。判決書の記載によると、ない。これもまたアップル社(またはその代理弁護士)の合法的権益の保護行動が最善を尽くしていなかったことを反映している。

次に、2001年の《商標法》第41条第1項を適用したことが「IPHONE」訴訟事件におけるアップル社の訴訟理由の一つでもあると仮定した場合、アップル社は勝訴する可能性があったのか。「facebook」訴訟事件における2001年の≪商標法≫第41条第1項の適用規則を参照し、筆者は新通天地公司の商標登録出願状況を検索してみたが、その中には「IPAD」「IPHONE SHOP」「愛風」「GOLDENSHIELD」「ULTRASHIELD」などの商標が沢山あった。それでは、この場合、2001年≪商標法≫第41条第1項を適用して規制することは可能なのか、筆者はやはり可能性はあったと判断する。だが、現時点では、この道はすでに閉ざされてしまった。責任は誰にあるのか。恐らくアップル社(またはその代理弁護士)にあるだろう。

訴訟活動にはその該当する規則がある。裁判官の判決は「事実をもとに、法律に準ずる」が、事実の出所、法律条項の適用はいずれも当事者の訴訟の主張に由来し、裁判官は中立して裁判するに過ぎない。従って、当事者(代理弁護士)が訴訟に参与することは非常に重要な役割があり、真剣に対処する必要があり、それだけの価値もある。

注 釈:

①北京市高級人民裁判所(2016)京行終1630号行政判決書参照

②北京市高級人民裁判所(2016)京行終475号行政判決書参照

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