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作者:劉耘
要約:技術的効果は技術的解決手段の3要素の一つとして、特許出願及び審査業務の重要な内容である。特許出願、審査実践の複雑性及び技術的解決手段の多様性から、技術的効果は内包が豊富であり、立体的、多角的、多段階の総合的特性を表している。本稿は特許出願及び審査実践における11組の技術的効果を整理且つ検討し、技術的効果に対するさらに深い認識と理解を得ることを期待する。そして、これに基づいて6つの提案をし、これらの提案は出願人が高レベルの特許出願書を作成するための参考になり、出願人が引用文献と拒絶理由通知書を正確に理解した上で高レベルな意見書作成するための参考になり、これにより特許出願の品質を顕著に向上させる。
キーワード:技術的効果 内包が豊富 総合的特性
技術的効果は技術的解決手段の3要素の一つとして、特許出願及び審査業務の重要な内容である。特許出願、審査実践の複雑性及び技術的解決手段の多様性から、技術的効果は内包が豊富であり、立体的、多角的、多段階の総合的特性を表している。以下、特許出願及び審査実践における11対の技術的効果を整理且つ検討し、技術的効果に対するさらに深い認識と理解を得ることを期待する。
一.技術的効果の基本的内包
技術的効果とはその文字通り、技術的特徴、技術的解決手段の効果であり、該効果は従来技術における早急に解決必要な技術問題を解決し、それにより技術的特徴、技術的解決手段の人々に対する使用価値を反映している。
技術的効果及び作用、機能は類義語であり、一緒に使用されることが一般的である。例えば、中国国家知識産権局の《特許審査基準》(2010年版)に規定されるように、
一般的に、製品の請求項に対して、機能または効果の特徴を用いて発明を限定することをでき
るだけ避けるべきである。
該技術的手段の該その他の部分における作用は、該区別される特徴が保護を求める発明において該再決定の技術問題を解決するために果たす作用と同じである。
最も近接する従来技術は、例えば、保護を求める発明の技術分野と異なるが、発明の機能を実現することができ、発明の技術的特徴を最も多く開示した従来技術であってもよい。
中国国家知識産権局の《審査操作規程》(2011版)に挙げられたように、事例4:請求項:保温可能であることを特徴とする湯呑。ここで、「保温可能である」は機能的限定であり、技術的効果として理解することもできる。
北京市高級人民裁判所の《特許権侵害判定基準》に規定されるように、
16.機能性技術的特徴とは、請求項における製品の部品または部品間の嵌合関係または方法のステップに対して、発明創造における作用、機能または発生する効果により限定される技術的特徴を指す。
43.同等の特徴とは、請求項に記載の技術的特徴と基本的に同じ手段により、基本的に同じ機能を実現して、基本的に同じ効果を達成し、当該技術分野の当業者が創造的労働を付せず想到できる技術的特徴を指す。
45.基本的に同じ機能とは、侵害起訴された技術的解決手段における置換手段が果たす作用と請求項に対応する技術的特徴が特許の技術的解決手段において果たす作用と基本的に同じことを指す。
要するに、一般的に、我々は、技術的特徴、技術的手段が果たす作用、機能または達成/発生した技術的効果または実現された機能を言うが、我々は発明の作用と言わず、発明の機能、発明の技術的効果と言う。
二.各種類の技術的効果
特許出願及び審査実践においては以下のような様々な技術的効果がある。
1.本発明の技術的効果及び従来技術の技術的効果
これは、技術的効果が属する技術的解決手段の相違点によって区別し、いずれも発明の出願日(または優先権日)を日付限界とする。
従来技術の技術的効果は、最も近接する引用文献の技術的効果、もう1つの引用文献の技術的効果及び周知技術における周知の技術的効果を含む。
発明の進歩性における「発明は顕著に進歩している」とは、発明が従来技術に比べ有益な技術的効果を生み出すことができることを指す。従って、審査過程において、出願人は発明の技術的効果及び最も近接する引用文献の技術的効果、最も近接する引用文献及び周知技術と照らした後に発生する技術的効果、最も近接する引用文献及びもう1つの引用文献と結合した後に発生する技術的効果などについて審査官とよく論争する。
2.主張する技術的効果及び実際の技術的効果
主張する技術的効果とは、出願人が提出した特許出願書類において述べた本発明が実現しようとする技術的効果及び審査段階に提出した意見書において述べた本発明が実現しようとする技術的効果を指す。主張する技術的効果は出願人自身が述べたものであるため、主観性を有する。特許出願書類において出願人が述べたものは、本発明の背景技術に対する技術的効果であり、審査段階において審査官がすでに最も近接する引用文献を検索したので、出願人は意見書において本発明の最も近接する引用文献に対する技術的効果を述べるべきである。
実際の技術的効果は技術的解決手段により実質的に実現した技術的効果である。我が国(中国)の特許審査は実質的審査であるため、審査官の重要な任務は発明の最も近接する引用文献に対する実際の技術的効果を考察し、出願された技術的解決手段の従来技術に対する実際の貢献を判断することであり、即ち、区別される技術的特徴が発明に与える実際の技術的効果を考察することであり、また、従来技術に技術的啓発があるか否かを考察する場合、該当する技術的特徴が引用文献に与える実際の技術的効果をさらに考察しなければならない。審査実践において、発明の実際の技術的効果を論争した後、特許庁または特許再審委員会により最終判断を下すため、客観性を有する。
出願人が主張する技術的効果に対応する技術的特徴が最も近接する引用文献により開示された場合、主張する技術的効果は審査官に認められていないため、本発明の実際の技術的効果ではない。この場合、審査官は請求項の最も近接する引用文献に対する区別される技術的特徴に基づいて本発明の実際の技術的効果を決定する。
出願人が主張する技術的効果に対応する技術的特徴が区別される技術的特徴である場合、主張する技術的効果を本発明の実際の技術的効果とすることができる。
3.記載の技術的効果及びそれに含まれた技術的効果
これは技術的効果の体現方式の違いに基づいて区別する。特許の出願及び審査はいずれも書面による出願と書面による審査である。出願書類、引用文献に文字の形式で記載された技術的効果は記載の技術的効果であるため、明示されたものではあるが、出願書類、引用文献には全ての技術的効果が記載されていないため、出願書類、引用文献の文脈から何の異議なく理解できる技術的効果がそれに含まれた技術的効果である。
出願人が引用した背景技術は審査官が確認した最も近接する引用文献と異なるため、記載の技術的効果は実際の技術的効果と一致しないかも知れない。
例えば、出願番号が200910244340.8である再審決定において、再審委員会は、特許権者が主張する「支持シート5が受ける前記重力の着力点と支持シートの固定点、即ち、ボルト7がある位置との間の距離は大幅に減少することができ、このように支持シートの支持能力を大幅に向上させることができ、同じ支持シート材料及び構造の場合、より大きい重力に耐えられることができる」との技術的効果は、当該特許明細書に記載されていないため、当業者は当該特許の明細書及び請求の範囲の記載に基づいても該技術的特徴が該請求項が要求する技術的解決手段のために上記技術的効果を果たすことができるか否かを確定することができないと判断している。要するに、特許権者が主張する技術的効果は記載の技術的効果ではなく、その含まれた技術的効果であるが、審査官が認める実際の技術的効果ではない。
4.基本的な技術的効果及び最適な技術的効果
特許出願書類において、発明内容の十分な開示及び請求項に対する支持を実現するために、最適な実施形態部分は複数の実施例を記述することが一般的である。実施例に対応されるのは最適な技術的解決手段及びその最適な技術的効果である。しかし、請求項は一般的に1つまたは複数の実施例に対して合理的に纏めており、特に独立請求項は、本発明の技術問題を解決する必要な技術的特徴のみを記載し、保護範囲が大きく、技術的特徴が少ないながらも上位の纏めであり、従って本発明の技術問題を解決するための基本的な技術的効果のみを実現している。即ち、独立請求項が限定する技術的解決手段は基本的な技術的効果を実現し、実施例の技術的解決手段は最適な技術的効果を実現している。
従って、明細書を作成する場合、発明の内容部分に記述するのは基本的な技術的効果であり、最適な実施形態部分において複数の実施例を記載し、各実施例の終わりに、各実施例の最適な技術的効果を記載し、最適な技術的効果は本発明の技術問題を解決するための基本的な技術的効果を含むだけでなく、実施例の技術的解決手段により発生するその他の技術的効果も含む。
特許審査において、発明の進歩性に対する評価は請求項により限定される技術的解決手段を対象に行われる。従って、審査官は請求項の技術的解決手段により発生する技術的効果のみを考察し、明細書における複数の実施例により発生する最適な技術的効果は、審査官が請求項の技術的解決手段及びその基本的な技術的効果を理解するために用いられる。
5.全体的技術的効果及び部分的技術的効果
技術的効果は技術的効果における技術的特徴及び技術的特徴の間の関係総括により発生する「1」。この観点から見ると、部分的、個別の技術的特徴により発生する技術的効果は部分的技術的効果であり、技術的特徴及び技術的特徴の間の関係総括により発生する技術的効果は全体的技術的効果であり、即ち、全体的技術的効果は技術的特徴の間の関係に対応する技術的効果を考慮している。
例えば、中国国家知識産権局の《審査操作規程》(2011版)に言及された事例のように、請求項1:部品Aは変形されにくい材料Bを採用することを特徴とする印刷設備。発明者は、用紙がずれる原因は印刷機をしばらく使用した後、部品Aが変形されるからであることを発見した。引用文献1は部品Aを有する類似する設備を開示した。請求項1の引用文献1に対する区別される技術的特徴は部品Aは材料Bを使用して作られたことである。
以上から分かるように、部品Aが本発明に与える変形しにくい技術的効果は部分的技術的効果に過ぎず、部品Aと技術的解決手段における印刷設備は部分と全体の関係であるため、技術的解決手段の全体性を考慮しており、部品Aが本発明の全体的技術的解決手段に与える技術的効果は、印刷する時に用紙がずれ難いことである。
しかしながら、部分及び全体はいずれも相対的なものであり、技術的解決手段において、技術的解決手段の全体と技術的手段(機能グループ)の間も全体と部分の関係であり、技術的手段と個別の技術的特徴の間も全体と部分の関係である。
全体的技術的効果は各部分の技術的効果の総括であってもよい。例えば、組み合わせられた発明において、組み合わせられた後の各技術的特徴の間には機能的に交互作用関係がなく、簡単な積み重ねに過ぎず、全体的な技術的効果は各組み合わせ部分の効果の合計「2」であり、即ち1+1=2の技術的効果である。
全体的技術的効果は各部分の技術的効果の総括より大きくてもよい。例えば、組み合わせられた発明において、組み合わせられた後の各技術的特徴の間は機能的に交互に作用し、交互に支持し、即ち、1+1>2の技術的効果を生み出し、即ち、新しい技術的効果を生み出している。
6.固有の技術的効果及び外因性の技術的効果
これは技術的効果により発生した内因と外因により区別する。固有の技術的効果は内因性の技術的効果であり、該技術的効果は技術的特徴自身の特徴、特性により決定される技術的効果であり、該技術的特徴が不可避的、必然的にもたらすものであり、客観的なものでもある。該技術的効果はその他の技術的特徴に影響されない。
例えば、コーティングの成分構成がその客観的な技術的効果を決定し、同じコーティングは必然的に同じ技術的効果を有する。また、例えば、同じ材料は必然的に同じ技術的効果を有し、同じ半導体デバイスの構造は客観的に同じ技術的効果を実現することができる。
外因性の技術的効果は外部の応用環境、即ち、当該技術的特徴及びその他の技術的特徴の間の関連及び交互作用などの影響を受ける技術的効果である。この場合の技術的効果は所在する応用環境によって異なり、よって同じ技術的特徴の本発明及び引用文献においてそれぞれ発生する技術的効果は異なる。
例えば、中国国家知識産権局の《審査操作規程》(2011版)に言及された事例のように、請求項1と引用文献1の区別は、可燃性ガスノズルには1本の高圧ガスソースに連通される中心パイプが設けられているが、引用文献2は可燃性ガスノズルの中心に1本の高圧ガスソースに連通される中心パイプが設けられていると開示していることである。
本発明と引用文献2の中心パイプの構造は同じであるが、該中心パイプの各技術的解決手段における技術的効果はそれぞれ異なる。
7.直接的な技術的効果及び最終的な技術的効果
技術的効果を説明する場合、一般的に漸進方式により技術的効果を説明し、例えば、ある発明の技術的効果は、触媒の劣化を抑制すると同時に、燃料電池スタックの発電過剰または不足を抑制することができ、よって高圧の蓄電池がある場合、高圧の蓄電池に繰り返して充放電することを避けることができることであるように説明する。「よって」の前は、直接的な技術的効果であり、「よって」の後は最終的な技術的効果である。
審査官が従来技術から直接的技術的効果及び最終的技術的効果の間の必然的なつながりを把握した場合、一般的に直接的技術的効果を実際に解決しようとする技術問題の基礎とし、よって最も近接する引用文献と本発明との距離を縮める。
例えば、以上に言及した印刷設備の事例において、審査官は技術的効果を、部品Aを変形し難くさせることによって、印刷する際の用紙をずれにくくすることと述べている。従って、本発明が実際に解決しようとする技術問題は如何に部品Aを変形し難くするかである。
しかしながら、発明者は印刷する際に用紙がずれやすくなる原因は部品Aが変形しやすいことにあることを初めて発見し、即ち、直接的な技術的効果が必然的に最終的技術的効果を達成させる原因は発明者が初めて発見したものであり、該原因は出願日(または優先権日)の前には従来技術の技術者に熟知されていなかった。従って、本発明の最終的技術的効果を実際に解決しようとする技術問題と確定する基礎とするべきであり、即ち、本発明が実際に解決しようとする技術問題は如何に印刷する際に用紙をずれにくくするかである。
8.予測できる技術的効果及び予測できない技術的効果
技術的特徴に対して、その技術的効果が当業者が当該分野の出願日(または優先権日)前の技術レベルに基づき論理的な解析、推理を経て得たものである場合、このような技術的効果は予測できる。
例えば、選択発明において、当業者はサイズなどのパラメータの変化と技術的効果の間の関係を把握した場合、サイズなどのパラメータを調整して最も近接する技術的効果を得る能力があり、このような技術的効果は予測できる。
例えば、以上に言及した印刷設備の事例において、部品Aが本発明に与える変形し難い技術的効果は変形し難い材料B自身の固有の特性によるものであり、変形し難い材料の特性は公知のものであるため、該固有の技術的効果は審査官に予測できる技術的効果と判断される。
予測できない技術的効果とは、発明は従来技術に比べて、その技術的効果が「質」的変化を発生し、新しい性能を有し、または「量」的変化を発生し、人々が予測する想像を超えることを指す。このような「質」的または「量」的変化は、かかる技術分野の技術者にとって、事前に予測または推理できないもの「3」である。
例えば、全体的な技術的効果は各部分の技術的効果の総括であることに対して、このような1+1=2の技術的効果は明らかに当業者が予測できるものである。全体的な技術的効果が各部分の技術的効果の総括より大きいことに対して、発生する1+1>2の技術的効果は当業者が予測できないものである。
9.単一の技術的効果及び複数の技術的効果
これは1つの区別される技術的特徴が発明に与える技術的効果の数から区別するものである。1つの区別される技術的特徴は、時には発明に1つの技術的効果を与え、時には複数の技術的効果を与える。
1つの区別される技術的特徴が複数の技術的効果を与える場合、複数の技術的効果の間の発生すると発生されるの関連性に注意すべきである。
例えば、出願番号が200880001438.4であり、発明名称が「改良された安全性を有する蓄電池」の再審決定において、
再審請求人は、補正後の請求項1は引用文献1に対して実際に解決しようとする技術問題は如何に蓄電池の安全性を改良するかであり、本願の実施例1~6において上記特徴を有する電池は優れた安全性を有することを証明し、引用文献1は電池の安全性に触れていないと主張している。
合議体は以下のように判断する。本願の明細書第4頁最後の1段落から第5頁第1段落目に記載の「前記第1リチウム金属を含有する複合酸化物及び前記第2リチウム金属を含有する複合酸化物の容量比(重量比)の好ましい範囲は70‐95:5‐30であるが、本発明の範囲はこれに限定されない。その重量比が上記範囲の下限より低い場合、陰極の電気化学的性能は低減する可能性があり、前記重量比が上記範囲の上限より高い場合、前記酸化物は抵抗とするのに不十分である可能性があり、電池の安全性を改良する効果を実現し難くくなる」から分かるように、本願の請求項1により限定される「前記第1リチウム金属を含有する複合酸化物と前記第2リチウム金属を含有する複合酸化物の重量比の範囲は70‐95:5‐30」であり、その解決しようとする技術問題は電池の安全性を改良するだけでなく、陰極の電気化学的性能を改善することも含む。引用文献1に開示されたかかる重量比をもとに、当業者は請求項1により限定された重量比の範囲を容易に得ることができ、当業者は2種の材料の陰極の電気化学性能に対する公知周知影響に基づいてその該当する技術的効果を合理的に予期することができる。引用文献1には第1リチウム金属を含有する複合酸化物と第2リチウム金属を含有する複合酸化物の重量比を変えて電池の安全性を改良することは記載されていないが、当業者は引用文献1に開示されたかかる重量比をもとにその把握した技術的知識と結合して請求項1により限定される重量比の範囲を容易に把握することができるため、この場合、電池が本願の請求項1と同じ構造及び構成を有するため、必然的に電池の安全性も改良している。
要するに、審査官は、該区別される技術的特徴「前記第1リチウム金属を含有する複合酸化物と前記第2リチウム金属を含有する複合酸化物の重量比の範囲は70‐95:5‐30」は本発明に蓄電池の安全性を改良すること(記載の技術的効果)及び陰極の電気化学的性能を改良すること(暗黙の技術的効果)の2つの技術的効果を与えると認める。該暗黙の技術的効果は当業者が引用文献1に基づいて予期できる技術的効果である。同じ構造及び構成の場合、当業者は必然的に該記載の技術的効果も実現する。
10.分割できる技術的効果及び分割できない技術的効果
特許の進歩性の「3ステップ法」の判断は、発明の技術的解決手段を最も近接する引用文献の技術的解決手段に基づいて区別される技術的特徴及び非区別される技術的特徴に分割することである。従って、合理的に区別される技術的特徴を分割し区別される技術的特徴に対応する技術的効果を確定することは、特許の進歩性を判断する「3ステップ法」の目的であり、進歩性を判断する客観的要求でもある。
審査段階において、審査官の発明の技術的解決手段に対する分割は一般的に合理的であるが、一部の場合、区別される技術的特徴の間の関連、交互作用に対して、例えば作動方式における条件関係、機械構造における嵌合関係、物質間の化学反応関係などのように、該区別される技術的特徴がその他の1つまたは複数の区別される技術的特徴を離れると、発明の全体的な技術的解決手段における機能及び作用を実現することができず、該区別される技術的特徴とその他の区別される技術的特徴との間は関連、交互作用の関係であると考えることができ、この場合、これらの技術的特徴を全体として発明の技術的解決手段における作用を判断することができる「4」。
技術的効果と技術的特徴は1対1に対応するため、従って、分割できない技術的特徴に対応されるのが分割できない技術的効果である。分割できない技術的効果は、個別に部分、各自の技術的効果を考慮することができないことに反映され、自身の全体性がより強い技術的効果である。
例えば、出願番号が201110031236.8であり、発明名称が「クラッチのスリップ差回復システム及び方法」の再審決定において、技術的特徴「前記TCCのスリップ差が閾値より低いか否かを確定するのに用いられる第3制御ロジックと、前記TCCのスリップ差が前記閾値を超える場合、前記作動圧力を前記TCCのスリップ差を増大させる第1圧力のレベルに調整する第4制御ロジックと」に対して、
合議体は以下以下のように判断する。
1)引用文献2は実際のトルクコンバータのスリップ差を「故障スリップ差定数」または「スリップ差安定性最大定数」と比較するステップを開示する。しかしながら、引用文献2は方法の次のステップがトルクコンバータクラッチの作動圧力を調整することとは教示していない。要するに、引用文献2には閾値を比較するステップのみが開示され、比較する目的が異なるため、当業者は該個別の閾値を比較するステップから該ステップを引用文献1に応用し、比較した後に例えばトルクコンバータクラッチの作動圧力を調整する技術的啓発を得ることが難しい。
2)上記技術的特徴における第3制御ロジックに設置された比較の目的は直接第4制御ロジックの実行ステップのために準備することであり、2つの技術的特徴を組み合わせてこそTCCのスリップ差を快速に回復する技術的効果を共に実現することができ、分割して各自の技術的効果を個別に考慮することはできない。
11.より好ましい技術的効果及びより悪い技術的効果
審査過程において、より好ましい技術的効果は本発明が実際に解決しようとする技術問題を確定する基礎である。発明が実際に解決しようとする技術問題を確定するには、先ず護を求めている発明は最も近接する従来技術に比べてどのような区別される特徴があるかを分析し、その後、該区別される特徴により達成できる技術的効果に基づいて発明が実際に解決しようとする技術問題を確定するべきであり、この意味から言えば、発明が実際に解決しようとする技術問題とは、より好ましい技術的効果を得るために最も近接する従来技術を改良しなければならない任務である「5」。
そのため、最も近接する従来技術を改良して最も近接する引用文献ともう1つの引用文献の技術的解決手段を結合する場合は、必ずより好ましい技術的効果のために行われた結合であり、より悪い技術的効果のためには結合する動機がない。
例えば、出願番号が200980151396.7である再審決定において、合議体は、本願の請求項1と引用文献1の実施例9との区別される技術的特徴は「反応表面デバイスが金網に設置される」であり、引用文献1の実施例9は反応表面デバイスをハチの巣状支持体に設置することにより、浄化が必要な空気を最小の圧力損失で通過させることができ、空気の圧力損失が最小化されたため、浄化設備を十分にスムーズに通過させることができ、浄化効果を向上させ、当業者は引用文献1の浄化設備を改良する場合、浄化効果をさらに向上しなければならず、引用文献1の実施例9の反応表面デバイスを金網に設置することには、空気の圧力損失が増大し、浄化効果を向上させるのに不利であるため、当業者はこのように改良する動機がないと判断する。
三.提案と啓発
以上は論述に便宜を儲けるために過ぎず、独立した方式で各技術的効果を11種類に分けるが、特許の出願及び審査実践において、技術的効果は同時に複数の種類を有することができ、例えば、出願人が出願書類において主張した技術的効果は記載の技術的効果であり、記載の技術的効果は直接的な技術的効果と最終技術的効果を含むべきである。しかし、発明の内容部分に記載された技術的効果は基本的な技術的効果であり、最も好ましい実施形態部分に記載された技術的効果は最も好ましい技術的効果であり、これは我々に複数の角度から総合的技術的効果を考慮しなければならないことを伝える。
多角的考慮 | 各種類の技術的効果 | ||
1 | 所属技術的解決手段の角度から | 本発明 | 従来技術 |
2 | 出願及び審査の角度から | 主張の | 実際の |
3 | 技術的解決手段に記載の方式の角度から | 記載の | 暗黙の |
4 | 独立請求項及び実施例の角度から | 基本的な | 最も好ましい |
5 | 部分と全体との関係の角度から | 部分 | 全体 |
6 | 技術的効果の発生原因の角度から | 固有の | 外因性 |
7 | 技術的効果を説明する角度から | 直接 | 最終的 |
8 | 当業者が予測できたか否かの角度から | 予測できる | 予測できない |
9 | 技術的効果を形成する数の角度から | 単一 | 複数 |
10 | 技術的効果自身の全体性の角度から | 分割できない | 分割できる |
11 | 結合された後の技術的効果の優劣の角度から | より好ましい | より悪い |
技術的効果の多角的且つ総合的特性は、出願書類の作成、審査意見の回答に以下の提案と啓発を提供する。
1.記載の技術的効果は暗黙の技術的効果より更に説得力がある。従って、特許出願書類を作成する場合、新規情報検索などの複数の手段により出願日の前の当該分野のかかる技術の最新動向を正確に把握し、従来技術の技術的効果を把握すべきである。審査官が指摘した最も近接する引用文献と背景技術文献が異なっても、出願書類に記載の背景技術に対する技術的効果は依然として最も近接する引用文献に対する技術的効果であり、依然として本発明の実際の技術的効果である。
2.基本的な技術的効果の内在するロジック性を強化し、解決しようとする従来技術に存在する技術的問題をどのように発見し提出すればいいのか→該技術的問題を解決するために、どのように技術的解決手段を提出すればいいのか→実現した基本的な技術的効果によりどのように提出された技術的問題を解決すればいいのか、これは基本的な技術的効果の内在するロジックの主軸である。ロジック性が強いほど、基本的な技術的効果は説得力がある。また、基本的な技術的効果に説得力がない場合、独立請求項を最も好ましい実施例の技術的解決手段によりさらに限定し、最も好ましい技術的効果により本発明と引用文献の技術的効果方面における区別をさらに大きくする。
3.実質的に技術的効果が発生する原因を把握する。技術的効果が発生する内在的原因は進歩性の判断に非常に重要であり、例えば、発明者の技術的問題を解決する原因に対する初めての発見、または複数の技術的手段を相互作用させて全体的に技術的問題を解決したことなど。
4.多段階且つ多角的に技術的効果を説明し、説明する技術的効果ができるだけ審査官に完全に認められるように、論理的に基本的な技術的効果を説明する上、支えとして最も好ましい技術的効果を説明しなければならず、直接的な技術的効果を説明する上、最終的な技術的効果も説明しなければならない。
5.技術的効果によるリスクを見極め、固有の技術的効果による技術的効果の予測可能性に警戒しなければならず、直接的な技術的効果と最終的な技術的効果の間に必然的な関連があるか否かに注目し、暗黙の技術的効果が存在するか否かに注目し、複数の技術的効果の間の関連などに注目する必要がある。
6.拒絶理由通知書に回答する時、指摘された暗黙の技術的効果を文脈から何の異議なく理解することができるか否かを分析し、審査官の技術的解決手段に対する分割が合理的であるか否か、分割できない技術的効果を分割したのではないか、引用文献と照らした後の技術的効果がより良いかそれともより悪いのかを分析し、予測できない技術的効果であるか否かを分析し、構造は同じであるが外因性の技術的効果ではないのかを分析し、直接的な技術的効果それとも最終的な技術的効果を実際に解決しようとする技術的問題を認定する基礎したのかなどを分析しなければならない。
要するに、以上の提案を深く正確に理解し使用すると、出願人が高レベルな特許出願書の作成に役立ち、出願人が正確に引用文及びと拒絶理由通知書を理解した上に高レベルの意見書を作成するのに役立ち、よって特許出願の品質を顕著に向上させる。
四.終わりに
以上の様々な検討は、技術的効果のすべての類型を含まず、含むこともできず、ここでは技術的効果の多角的、総合的な特性のみを強調し、拒絶理由通知書を作成し拒絶理由通知書に回答する場合、技術的効果をさらに注目し、技術的効果をさらに深く理解するべきである。技術的効果のより多くの内包は、今後の出願及び審査実践におおいてまとめる必要があり、そのため、本稿の目的はたたき台を提示することである。不足するところ及び詳しくないところに対しては、ご指導願いたい。
「1」中国国家知識産権局の《審査操作規程》(2011版)第22頁
「2」中国国家知識産権局の《特許審査基準》(2010版)第121頁
「3」中国国家知識産権局の《特許審査基準》(2010版)第125頁
「4」 http://www.sipo.gov.cn/mtjj/2013/201312/t20131220_890734.html ≪進歩性評価における実際に解決しようとする技術的問題の確定≫著者 于萍
「5」中国国家知識産権局の《特許審査基準》(2010版)第118頁